値下げとギブアンドテイク

経営相談中に、B to B向けのサービスを展開するスタートアップの経営者から「値下げを絶対したくない。個数を減らして価格を下げる交渉はする。だが純粋な値下げをするぐらいならサービスを提供しない。」という話があった。

私も基本的には「値下げは良くない」という立場ではある。

ただし、本件は何よりも初受注が大切だと考えており、「値下げを交渉の手札にいれる準備をしたほうが良い」と話をした。

まずは、値下げが良くない理由を列挙してみる。

  • 特に一般消費者向けのビジネスの場合、値下げすると、他の顧客にも同様に値下げした価格でしか売れなくなり、長期的に収益を圧迫する
  • 値下げを要求する人の中には、そのサービスに関わるコストを知らないことがある。
  • なんとなく「値下げして」という人もいる。
  • 上記、2例においては、値下げに気軽に乗ってしまうと値下げに応じたサービスしか提供できず、結局、発注した企業も受注した企業もlose-loseになることがある。
  • サービスのニッチー性、競合相手などを考えても、そのことを公表しなければ、他の顧客に同じ値下げ要求をされることはない。
  • 値下げは、長期的には商品サービスのブランド力を希釈する可能性がある。
  • すでに同じ価格で提供している顧客に対して、値下げをすることは失礼に当たる。
  • 値下げをする商品サービスは「自信がない」と思われることがある。
  • がめつい見込客もいるため、次々と値下げを要求してくることもある
    など

一方で、今回の件は、初受注が何よりも重要と考え、多少の値下げは認めても良いと感じた理由を列挙する(ただし、損益分岐点が零、もしくは許容範囲の赤字ラインという前提はある)

  • 値下げは、ギブアンドテイクの「ギブ」に該当する可能性があり、値下げを認める結果、受注に繋がる可能性が高まる。
  • ニッチー分野のサービスゆえ、商談につながるチャンスが多くなく、受注に繋がる可能性を少しでも高めたい。
  • 相手の要求を認めることで、返報性の法則が期待でき、最終的には、自他ともにWin-Winになれる可能性がある。
  • 初受注は、相談相手のサービス提供の自信につながる。
  • 自社は損をするかもしれないが、社会貢献に繋がるサービスゆえ、導入企業のサービス利用者にとってはプラスに働く。
  • 多少の値下げしても、長期的には利益が出る可能性が高い。
  • 原価を上回る売上が発生し、固定費の一部を回収できる可能性が高い。
  • 長期間提供するサービスであり、コストをイニシャルとランニングに分けて、イニシャル部分を値下げすれば、長期的な収益はプラスになる。
  • 初受注による知見は、次回以降の見込客との商談に対する経験を作ることができる。
  • 値下げを求める企業の状況は様々であり、がめつい見込客だけではない。
  • 値下げ→受注につながるのであれば、一時的にキャンペーンを行った、広告宣伝費の一貫と割り切ることもできる
    など

今回の件については、ここまでを考えると、自ら値下げを申し出る必要こそないが、多少であれば値下げに応じても事業にとってプラスになる可能性が高いと判断した。
相談相手にとっては、「値下げは悪。値下げを要求する人は付き合ってはいけない人」という固定概念あるらしく、これまで一度も値下げ交渉をしたことがないとのことなので、値下げをする人の心理も洞察できていないとも考えられた。
そのため、わたしからの提案を頑なに断っていた。
ちなみに、自分としても、気分を害する提案はしたくはないのだが、言うべきときは言うべきだとは考えている。

さて本題の「値下げはギブアンドテイクにつながるか」という話だが、「競合が多くて自社の価格が相場よりも高い」「相手ががめつい」「値下げ交渉に慣れており担当者で値下げを自社への忠誠心で相手企業はいくらでもいると考えている担当者」などの例外はいくつかあるが、多くの場合、YESと考えている。

すでにブランド力がある力関係が逆転している場合を除くが、事業を創業・継続している経営者は、初期の売上を上げるのに苦労した人も負いと思う。

自社のサービスが良いにも関わらず売れない、という事例は創業したての頃は、かなり多くあるのではないだろうか?
創業時点では、ストックできる弾は多くないし、顧客と自社の力関係は、圧倒的に顧客のほうが強い。
創業から一定の売上が上がるまで様々な試行錯誤があるとは思うが、その中で「ギブアンドテイク」「返報性の法則」に活路を見出し、結果として売上獲得につながるきっかけとなった人も多くいるだろう。

顧客にとって価格は大きな誘引材料であるが、一方で、値下げ交渉は、多少なりとも購入先にとって悪いことをしているという罪悪感が発生しやすい。
このため、「値下げを認める」は、相手の罪悪感を払拭させる「ギブ」として働くことが多い。
「ギブ」を与えることで良い会社だ、信頼してお付き合いを続けても良いかなという、思いが働き、なにかテイクを与えても良いかなという想いが働き、ギブアンドテイクが成立しやすい。
このため、販売側、受注獲得や価格以外の面で優遇してもらう交渉材料にもなる。

とはいえ、ビジネス的なギブアンドテイクのギブがどこにあるかを見極めるのには、他社の体験談、仮説検証、試行錯誤、などが必要で、「下下げ=ギブ」という発想が浮かぶまでには、多少の時間がかかることもある。

例えばだが、こんな話がある。

  • 何十年も事業を続けているある経営者から「相手に難題を付き続けられていいるが、相手も同じ子をと考えている場合がある。自分も相手も損していると感じているぐらいが実はちょうどいい関係」という話を聞いたことがある。
  • 低価格の戦略として「ペネトレーション価格戦略(新規市場や競合他社に対して、低価格を設定してシェアを広げる戦略)」「ディスカウント戦略(定期的な割引やセールを通じて製品やサービスの価格を引き下げ、顧客を引きつける戦略)」


先に述べたように、基本的には「値下げは良くない」と考えている。
だが、営業経験が乏しいと「値下げを悪」と頑なに考えてしまい、それで有力な商談時の交渉手札を減らしてしまうのは良くないとも考えている。
少なくとも、相手から「値下げしてほしい」と言われたら、感情的にNoと答えるのではなく「検討したいので持ち帰らせてください」ぐらいは言えるようにしたい。

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